【プレスリリース】「インターネット上の人権侵害情報対策法モデル案」を公表しました

本研究会が2019年12月の院内セミナーで発表した「インターネット上の人権侵害情報対策法モデル案」を掲載しました。【PDF版のダウンロードはこちらから】





インターネット上の人権侵害情報対策法モデル案







第一章 総則

(目的)
第一条 この法律は、インターネットがあらゆる人々にとって必要不可欠な社会基盤となる中、インターネット上におけるさまざまな人権侵害によって多くの人々がインターネットの安全な利用を妨げられている状態にあることに鑑み、インターネット上の人権侵害にかかわる禁止事項、インターネット事業者の責務及び免責並びにインターネット人権侵害情報委員会による人権侵害情報の送信の防止手続き及び人権侵害情報関連情報の開示手続きを定めることにより、インターネット上における人権侵害による被害を減少させ、あらゆる人が安心してインターネットを利用できる社会を実現することを目的とする。

(定義)
第二条 この法律において「人権侵害情報」とは、第三条に定めるインターネット上に流通させてはならない情報をいう。
2 この法律において「人権侵害情報関連情報」とは、人権侵害情報の発信者の特定に資する情報をいう。
3 この法律において「アクセスプロバイダ」とは、特定電気通信役務提供者のうち、有償無償を問わず、インターネット接続サービスを提供する者をいう。この場合、仮想移動体通信事業者及び仮想移動体通信事業者に通信回線を貸与している者並びにインターネットに接続した者にアクセスプロバイダから貸与されたIPアドレスとは異なるIPアドレスを提供する者も含む。
4 この法律において「コンテンツプロバイダ」とは、特定電気通信役務提供者のうち、インターネット上でコンテンツを提供する者をいう。
5 この法律において「大手コンテンツプロバイダ」とは、コンテンツプロバイダのうち、〇〇省令で定める者をいう。
6 この法律において「仮想移動体通信事業者」とは、他のアクセスプロバイダから通信回線を借り、インターネット接続サービスを提供する者をいう。
(禁止事項)
第三条 何人も、インターネット上に下記の情報を流通させてはならない。
一 (名誉毀損)人の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させる情報。但し、当該行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、専ら公益を図る目的に出た場合には、事実が真実であることが証明されたとき又はその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときを除く。
二 (プライバシー侵害)私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあり、かつ、一般人の感受性を基準にして当該個人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められ、一般に人々にいまだ知られていない情報。但し、当該情報を公開されない法的利益及びこれを公表する理由とを比較衡量し、後者が前者に優越するときを除く。 
三 (差別的言動)人種、皮膚の色、民族的若しくは種族的出身、国籍、世系若しくは社会的身分、性別、性的指向、性自認、又は障がい若しくはハンセン病歴の有無における少数者の属性を有することを理由とし、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有する下記の情報
1)人種等の属性を有する特定の者に対する脅し、侮蔑、嫌がらせその他の情報
2)人種等の属性を有する不特定の者に関し、次に掲げる情報
イ.著しい侮蔑若しくは誹謗中傷により貶め、価値の低い又は害があるものとして扱う情報
ロ.生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加えることを告知し若しくは知りうる状態に置き、又は助長することにより脅威を感じさせるもの
ハ.社会からの排除を求めるもの
二.差別の意識をあおり又は誘発することを目的とする下記の情報
i)人種等に関する共通の属性を基準として、人を抽出し、一覧にした情報
ii)人種等に関する共通の属性を有するものが、当該属性を有することを容易に識別することを可能とする特定の地名、人の氏、姓その他の情報


第二章 特定電気通信役務提供者の責務及び免責事由

(特定電気通信役務提供者の基本的責務)
第四条 特定電気通信役務提供者は、人権侵害情報をインターネット上に流通させることのないよう努めなければならない。
2 特定電気通信役務提供者は、人権侵害情報関連情報を取得するよう努めなければならない。
3 特定電気通信役務提供者は、人権侵害情報関連情報を3年間保存するよう努めなければならない。但し、アクセスプロバイダ及び大手コンテンツプロバイダは、人権侵害情報関連情報を3年間保存しなければならない。
4 大手コンテンツプロバイダは、人権侵害情報に係る苦情の処理について、利用者に対し、人権侵害情報に関する直接的、かつ、容易にアクセス可能で、非公開の常に利用可能な通報手続を提供しなければならない。

(インターネット人権侵害情報委員会からの削除要請に対する大手コンテンツプロバイダの責務)
第五条 大手コンテンツプロバイダは、第三章に定めるインターネット人権侵害情報委員会から人権侵害情報の削除要請があったときは、遅滞なく、当該情報が人権侵害情報に該当するか否か及び当該情報の送信の防止をすべきか否かを審査しなければならない。
2 大手コンテンツプロバイダは、前項の要請があったときは、当該情報の送信の防止をするか否かを判断する際には、インターネット人権侵害情報委員会が専門的知見を有する独立した第三者機関であることを考慮しなければならない。
3 大手コンテンツプロバイダは、当該情報が人権侵害情報に該当すると判断した場合は、第1項の要請があった時から48時間以内に当該情報の送信の防止をしなければならない。 
4 大手コンテンツプロバイダは、第1項の要請があったにもかかわらず当該情報の送信の防止をしなかった場合には、その理由を具体的に明らかにしなければならない。 

(インターネット人権侵害情報委員会からの開示要請に対する特定電気通信役務提供者の責務)
第六条 特定電気通信役務提供者は、インターネット人権侵害情報委員会から人権侵害情報関連情報の開示要請があったときは、遅滞なく、当該情報が人権侵害情報関連情報に該当するか否か及び当該情報を開示すべきか否かを審査しなければならない。
2 特定電気通信役務提供者は、前項の要請があったときは、当該情報を開示するか否かを判断する際には、インターネット人権侵害情報委員会が専門的知見を有する独立した第三者機関であることを考慮しなければならない。
3 特定電気通信役務提供者は、当該情報が人権侵害情報関連情報に該当すると判断した場合は、第1項の要請があった時から2週間以内に当該情報を開示しなければならない。
4 特定電気通信役務提供者は、第1項の要請があったにもかかわらず当該情報を開示ししなかった場合には、その理由を具体的に明らかにしなければならない。

(年次報告) 
第七条 大手コンテンツプロバイダは、そのプラットフォーム上の人権侵害情報に係る苦情の処理に関する報告書を半年毎に作成し、インターネット人権侵害情報委員会に対して提出しなければならない。
2 大手コンテンツプロバイダは、前項の報告書を、自身のウェブサイト上で、半期の終了から少なくとも1月後に公開しなければならない。
3 大手コンテンツプロバイダは、第1項の報告書を提出する際には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
 一 大手コンテンツプロバイダが、プラットフォーム上における人権侵害情報の流通の防止のために行っている取組に関する一般的説明
 二 人権侵害情報に係る苦情取扱い制度及び取扱い基準の説明
 三 報告期間中に受領した、利用者の苦情理由に従って分類された苦情件数。
 四 苦情対応を所掌する部門の組織、人員の構成及び人数並びに苦情対応のための技術的及び言語的能力の訓練及び補助

(免責規定)
第八条 
1 特定電気通信役務提供者は、人権侵害情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。
一 特定電気通信役務提供者が、人権侵害情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当な理由があったとき。
二 当該人権情報の発信者から人権侵害情報の送信を防止する措置を講じた日から七日を経過しても当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。
三 インターネット人権侵害情報委員会からの人権侵害情報についての要請に従い、人権侵害情報の送信を防止したとき。
2 特定電気通信役務提供者が、第6条第1項のインターネット人権侵害情報委員会の要請に基づき、人権侵害情報関連情報の開示を行ったときは、当該開示により発信者に生じた損害については賠償の責めを負わず、かつ、電気通信事業法第百七十九条の適用を受けない。


第三章 インターネット人権侵害情報委員会

(設置)
第九条 内閣府に、インターネット人権侵害情報委員会(以下「委員会」という。)を置く。

(任務)
第十条 委員会は、インターネット上の被害の救済を図るとともに表現の自由に対する過度の制約を防止することを任務とする。

(所掌事務) 
第十一条 委員会は、前条の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。
一 インターネット上の人権侵害に関して、特定電気通信役務提供者に対し、人権侵害情報の削除要請及び人権侵害情報関連情報開示要請を行うこと。
二 インターネット上の人権侵害の被害者に対する情報提供などの援助をすること。
三 大手コンテンツプロバイダが人権侵害情報の送信を防止するか否か及び特定電気通信役務提供者が人権侵害情報関連情報を開示するか否かについて意見を求めたときは、意見を述べること。
四 大手コンテンツプロバイダが提出した報告書の管理及び監督をし、必要があると認めるときには、大手コンテンツプロバイダに対し、意見を述べ又は勧告すること。
五 インターネット上の人権侵害について、被害の実態を明らかにするための調査を行うこと。

(特定人に対する人権侵害情報の削除要請)
第十二条 インターネット上の人権侵害の被害者は、自ら人権侵害情報の削除請求をすることが不可能若しくは困難な事情があるとき又はインターネット上の人権侵害の被害者が人権侵害情報の削除請求をしたものの削除されなかったときは、委員会に対して当該情報の削除要請の申立てをすることができる。
2 委員会は、インターネット上の人権侵害の被害者が、自ら人権侵害情報の削除請求をすることが不可能若しくは困難な事情があるとき又はインターネット上の人権侵害の被害者が人権侵害情報の削除請求をしたものの削除されなかったときは、人権侵害があると信じるにつき相当な理由がある場合は、インターネット上の人権侵害の被害者に代わり、大手コンテンツプロバイダに対して人権侵害情報の削除要請をすることができる。
3 委員会は、第1項の申立てがあった日から1週間以内に前項の要請をしなければならない。

(不特定人に対する人権侵害情報の削除要請)
第十三条 何人も、不特定人に対するインターネット上の人権侵害があったと思料するときは、委員会に対して削除要請の申立てをすることができる。
2 委員会は、インターネット上の人権侵害があると信じるにつき相当な理由がある場合は、大手コンテンツプロバイダに対して人権侵害情報の削除要請をすることができる。
3 委員会は、第1項の申立てがあった日から1週間以内に前項の要請をしなければならない。

(特定人に対する人権侵害情報関連情報の開示要請)
第十四条 インターネット上の人権侵害の被害者は、自ら人権侵害情報関連情報の開示請求をすることが不可能若しくは困難な事情があるとき又はインターネット上の人権侵害の被害者が人権侵害情報関連情報の開示請求を特定電気通信役務提供者にしたものの開示されなかったときは、委員会に対して開示要請の申立てをすることができる。
2 委員会は、インターネット上の人権侵害の被害者が、自ら人権侵害情報関連情報の開示請求をすることが不可能若しくは困難な事情があるとき又はインターネット上の人権侵害の被害者が人権侵害情報関連情報の開示請求を特定電気通信役務提供者にしたものの開示されなかったときは、人権侵害があると信じるにつき相当な理由がある場合は、インターネット上の人権侵害の被害者に代わり、特定電気通信役務提供者に対して人権侵害情報関連情報の開示要請をすることができる。
3 委員会は、第1項の申立てがあった日から2週間以内に前項の要請をしなければならない。
4 委員会は、人権侵害情報関連情報を取得した場合は、3日以内に被害者に当該情報を通知しなければならない。

(情報の提供)
第十五条 委員会は、インターネット上の人権侵害の被害者に対し、人権侵害情報の削除請求の方法や人権侵害情報関連情報の開示請求その他の情報を提供するものとする。

(意見の提供)
第十六条 委員会は、大手コンテンツプロバイダが人権侵害情報を削除するか否か及び特定電気通信役務提供者が人権侵害情報関連情報を開示するか否かについて意見を求めたときは、意見を述べることができる。

(関連機関との協力)
第十七条 委員会は、法務省人権擁護局、法務局、地方公共団体における人権担当部署など、インターネット上の人権侵害に取り組む関連機関との協力を図らなければならない。

(報告書の管理及び監督)
第十八条 委員会は、大手コンテンツプロバイダが提出した報告書の管理及び監督をし、必要があると認めるときには、大手コンテンツプロバイダに対し、意見を述べ又は勧告をすることができる。

(実態調査)
第十九条 委員会は、インターネット上の人権侵害について、毎年、被害の実態を明らかにするための調査を行わなければならない。
2 委員会は、前項の調査のため必要があるときと認めるときは、大学、独立行政法人、一般社団法人若しくは一般財団法人、事業者その他の民間の団体、地方公共団体の研究機関又は学識経験を有する者に対し、必要な調査を委託することができる。

(組織等)
第二十条 委員会は、委員長及び委員〇人をもって組織する。
2 委員は、インターネット上の人権侵害及びインターネット技術に関し専門的知見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。

(任期等)
第二十一条 委員の任期は、〇年とする。ただし、補欠の委員長及び委員の任期は、前任者の残任期間とする。
2 委員長及び委員は、再任されることができる。
3 委員長及び委員の任期が満了したときは、当該委員長及び委員は、後任者が任命されるまで引き続きその職務を行うものとする。

(委員長)
第二十二条 委員会に委員長を置き、委員長は、委員のうちから委員の互選により定める。委員長は、再任されることができる。
2 委員長は、委員会の会務を総理し、委員会を代表する。
3 委員会は、あらかじめ常勤の委員のうちから、委員長に事故がある場合に委員長を代理する者を定めておかなければならない。

(会議)
第二十三条 委員会の会議は、委員長が招集する。
2 委員会は、委員長及び〇人以上の委員の出席がなければ、会議を開き、議決をすることができない。
3 委員会の議事は、出席者の過半数でこれを決し、可否同数のときは、委員長の決するところによる。
4 委員長に事故がある場合の第二項の規定の適用については、前条第二項に規定する委員長を代理する者は、委員長とみなす。

(事務局)
第二十四条 委員会の事務を処理させるため、委員会に事務局を置く。
2 事務局に、事務局長その他の職員を置く。
3 事務局の職員の半数は、インターネット上の人権侵害又はインターネット技術に関し専門的知見を有する者でなければならない。但し、事務局の職員のうちその四分の一以上は、インターネット上の人権侵害に関する専門的知識を有する者でなければならない。
4 事務局長は、委員長の命を受けて、局務を掌理する。

(秘密保持義務)
第二十五条 委員長、委員及び事務局の職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らし、又は盗用してはならない。その職務を退いた後も、同様とする。

(政令への委任)
第二十六条 この章に規定するもののほか、委員会に関し必要な事項は、政令で定める。


補足 裁判手続

(管轄)
第〇条 インターネット上の人権侵害情報関連情報の開示請求事件については、債権者の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所に提起することができる。

(送達)
第〇条 

(資格証明書)
第〇条