【ブログ記事】「インターネット上の人権侵害情報対策法モデル案」ポイント解説

本研究会が2019年12月の院内セミナーで発表した「インターネット上の人権侵害情報対策法モデル案」のポイント解説を掲載しました。


【スライド版】「インターネット上の人権侵害情報対策法モデル案」ポイント解説

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【テキスト版】「インターネット上の人権侵害情報対策法モデル案」ポイント解説

1 禁止事項(3条)

 モデル案では、インターネット上の人権侵害として禁止される事項を以下の3つとしています。

(1)名誉毀損
(2)プライバシー侵害
(3)差別的言動

 このうち(3)の差別的言動については、その理由となる属性を「人種」「皮膚の色」「民族的若しくは種族的出身」「国籍」「世系若しくは社会的身分」「性別」「性的指向」「性自認」「障がい若しくはハンセン病歴の有無」のように列挙しています。

 またこうした差別的言動には、(a)特定の者に対する脅し・侮蔑・嫌がらせ、(b)不特定の者に対する著しい侮蔑・誹謗中傷、危害を与えることの告知・助長、社会からの排除、差別を誘発することを目的とする人名・地名の情報、の2つの形態が含まれます。

2 削除要請および開示要請の仕組み

 次に具体的な対策の内容ですが、これは(2-1)削除要請、(2-2)開示要請、の2つからなります。またとくに(2-1)削除要請については、さらに(2-1a)特定の者に対する人権侵害、(2-1b)不特定の者に対する人権侵害、の2つに分かれます。

2-1a 特定の者に対する人権侵害情報についての削除要請(5条・12条)

 これはたとえば「在日コリアンの女性がTwitterで人種差別的な誹謗中傷を受けた」といった事例で、被害者が該当する人権侵害情報の削除の申立てをする場合です。申立先はインターネット人権侵害情報委員会で、委員会は申立てに相当の理由があると判断した場合、申立てから1週間以内に大手コンテンツプロバイダに削除要請を行わなければなりません。削除要請を受けた大手コンテンツプロバイダは、削除要請から48時間以内に送信防止措置をとらなければなりません。

2-1b 不特定の者に対する人権侵害情報についての削除要請(5条・13条)

 これはたとえば「YouTubeに外国人の排斥を繰り返し訴える動画が投稿された」といった事例で、該当する人権侵害情報の削除を申立てる場合です(不特定の者に対する人権侵害情報については誰でも申立者になれます)。その後の手続きは特定の者に対する人権侵害情報の場合と同じです。

2-2 人権侵害情報関連情報についての開示要請(6条、14条)

 これはたとえば「在日コリアンの女性がTwitterで人種差別的な誹謗中傷を受けた」といった事例で、被害者が該当する人権侵害情報関連情報(人権侵害を行った者に関する情報)の開示を申立てる場合です。申立先は削除の場合と同様インターネット人権侵害情報委員会で、委員会は申立てに相当の理由があると判断した場合、申立てから2週間以内に特定電気通信役務提供者に開示要請を行わなければなりません。開示要請を受けた特定電気通信役務提供者は、開示要請から2週間以内に情報開示をしなければなりません。

3 特定電気通信役務提供者の義務(4条・5条・6条・7条)

 特定電気通信役務提供者は、(a)大手以外のコンテンツプロバイダ、(b)大手コンテンツプロバイダ、(c)アクセスプロバイダ、の3つに分かれます。

 特定電気通信役務提供者の義務はこれらそれぞれにおいて異なり、まず(a)大手以外のコンテンツプロバイダも含む特定電気通信役務提供者全体には、「人権侵害情報の流通防止(努力義務)」「人権侵害情報関連情報の取得(努力義務)」「人権侵害情報関連情報の3年間保存(努力義務)」「開示要請を受けた人権侵害情報関連情報の情報開示(開示しなかった場合はその理由)」が求められます。

 また(b)大手コンテンツプロバイダにはこれらに加え、「人権侵害情報関連情報の3年間保存」「人権侵害情報についての通報手続の提供」「削除要請を受けた人権侵害情報の送信防止」「送信の防止をしなかった場合はその理由」「年次報告」が義務付けられます。

 なお(c)アクセスプロバイダについては、大手コンテンツプロバイダの義務のうち「人権侵害情報関連情報の3年間保存」のみが適用されます。

4 インターネット人権侵害情報委員会の所管事務(3章)

 最後に、モデル案の要となるインターネット人権情報侵害委員会の所管事務についてまとめます。委員会の所管事務は以下のとおりです。

・人権侵害情報の削除要請および人権侵害情報関連情報の開示要請
・被害者に対する情報提供
・特定電気通信役務提供者に対する意見の提供
・大手コンテンツプロバイダが作成した報告書に対する意見・勧告
・インターネット上の人権侵害についての調査